登場人物
- 名前(仮名):桐島 翔太(きりしま しょうた)
- 年齢:29歳
- 性別:男性
- 住まい:東京都江戸川区・築30年の木造アパート
- 職業:中小企業の営業職(正社員)
- 現状の悩み:営業ノルマとパワハラ、心身の限界、でも辞められない
物語
1.「辞めます」の一言が出てこない
朝6時。目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
起きた瞬間に胸が重い。理由は分かってる。今日も会社に行かなきゃいけないからだ。
玄関の靴に目をやると、スーツの中の自分が既にしんどそうな顔をしている気がする。
今日こそ、部長に言おうと思っていた。「辞めさせてください」と。
でもその一言が、喉の奥に詰まったまま、何週間も過ぎている。
2.ノルマと怒号の毎日
勤務先は社員20人ほどの小さな企業。営業先は地元の中小企業や個人商店。
目標は「月○件契約獲得」──数字だけがすべての世界だ。
「やる気が足りない」「なんで取れねぇんだよ」「あいつに負けてんぞ」
社内のホワイトボードには、名前と件数が毎日更新され、赤字で“未達”の印が残される。
部長の怒鳴り声は、もう日常のBGMになっていた。
怒鳴られるのが怖いわけじゃない。ただ、その怒声が“何か”を削っていく感じがする。
会社からの帰り道、ふと「あと何日、耐えられるかな」と考えるようになった。
3.「辞める」はワガママか?
同僚の佐野は、去年辞めた。理由は「体調を崩して休職、そのまま退職」。
今は実家に戻って農業を手伝ってるらしい。
その話を聞いた部長が「だから根性なしはダメなんだよ」と笑った。
それを聞いて、辞めるのは“逃げ”なんだ、と心の奥で思ってしまった。
でも本当にそうなのか?
朝の満員電車で心臓がバクバクして、電車を途中下車することが増えてきた。
それでも「今日こそ行かなきゃ」と自分を叱りつけて出社する。
でも、心はもう、ずっと前から会社にいない。
4.「死にたい」とは言わないけど
ベランダに出ると、隣の部屋の学生が洗濯物を干していた。
「あ、こんにちは」
笑顔で挨拶されたその瞬間、自分が何ヶ月も誰かと“普通に会話”をしていなかったことに気づいた。
友人にも、家族にも、「仕事が辛い」と言っていない。
誰かに話すほどの勇気も、余裕も、もう残っていなかった。
夜になると、眠れない日が増えた。
目を閉じても、明日のアポ先や部長の顔が頭に浮かんでしまう。
「死にたい」とまでは思わない。でも、「このまま消えたい」とは、何度も思った。
5.“辞めたあと”が怖い
もし辞めたらどうなるんだろう?
実家に帰る?貯金は?次の仕事は?
それを考えるだけで、また胃が痛くなる。
会社が地獄でも、外の世界が天国とは限らない。
むしろ、失敗して「もっとひどい状況になる」ことのほうが怖い。
そうやって、今日も自分を“納得”させて会社に向かう。
たぶん、このまま30歳を迎えるんだと思う。
何も変わらず、何も変えられず。
一言まとめ(人生の問い)
「辞めること」は、逃げか、それとも、始まりか。
あなたなら、今の自分に、なんて声をかけますか?